----捻じ曲がった愛でどこまでも連れて行って。----

こうなるであろうことなど、予測できていた。
いや、彼自身、どこかでそうなることを望んでいたからなのだろう。
ロイに言われた通り大人しく執務室の鍵を閉め、まだ戸惑いながらも、ゆっくりと足を進める。
その行動に、指示を出したロイ本人も驚いていた。

「どうしたんだ、やけに素直だな」
「……大佐が素直になれって言ったんだろ。…ずいぶん遠回しだったけど」
「そうだったかな」
「そうだよ」

そう言い終えるのとほぼ同時か、エドワードがぽす‥とロイへと身を委ねてきた。
とっさにロイの両腕が彼の背に回ったのでハッとするが、抵抗はしないでいた。
ロイは、しばらくエドワードの体温を確かめるだけだったが、
その彼も目立った反応をしなかったので、ようやく話を切り出す。

「さて‥何をしようか」
「何って?」
「鍵まで閉めて、ここには私と鋼のだけだから」
「…だから?」

白々しく問い返してくる。
まったく自覚はあるのか、と冷静に理性を保ちながら思い、
それともわざと分からない振りをしているのだろうかとも考えるが、エドワードからの返答は無かった。
ロイの胸元に顔を埋めて黙ったままなのである。

「鋼の」 と呼びかけても、
「何」 と短く返ってくるだけ。

悲しいほどそっけない返事だが、エドワードの行動や、それからくる現在の状況がこれなので、
ロイは、もうその雰囲気に流されてしまおうかと、少しの距離も許さないというように、少年を一層強く抱き締める。

「…苦しいよ」

冷めた声で訴える彼は、まだ顔を俯けたままだった。
それでもロイは何となく表情を思い浮かべることが出来た。

「顔を上げなさい、鋼の」
「‥嫌」
「顔を埋めているから苦しいんだろう」
「大佐が抱き締めるから苦しいんだって」
「それなら放そうか?」
「…嫌」

いったいどうして欲しいのか。
ロイはとりあえず抱き締める力を少しだけ緩め、また様子を見る。


「………」

相変わらず続く沈黙。
どれくらい経ったのか、はっきりとは分からなかったが、
ただ抱き締められるままのエドワードに、ロイはとうとう焦れて。



「キスをしようか、鋼の」

腕の中で大人しくなっていたエドワードの髪をさらと撫で、囁いた。
その誘いに驚き、ようやくバッと顔を上げた少年は、見開いた瞳で自分を抱き締めている男を見上げた。
男は口元にあきれたような微笑を浮かべていた。

「はっ?」
「君があんまり大人しいからな。私から誘うのを待っているのかと思った…この間のように」
「うっさいな!嫌だよ、大佐とキスなんて」
「じゃあ、さっきのアレは何なんだ。君からしてくれたアレは?」
「‥し、知らねぇ‥!」

血迷ったとしか思えなかった。自分からしてしまったロイへのキス。その羞恥が再びエドワードの頭を支配する。

「そういう逃げ方は利口とはいえないな‥では訊くが、何故君がこうして私の腕に抱かれているのかね」
「そっ、そういう訊き方も趣味が良いとはいえねーんだけど!」
「私を責める前に、質問に答えてくれ」

畳み掛けるように言われて口を噤む。
おそらく、既に質問の答えは頭にあるのだろうが、一言さえ出すことはない。
そして、まるで許しの言葉を欲するかのように、ロイの軍服を掴んで離さなかった。

ロイはそれに気が付いて、彼をこれ以上俯かせない為にも、返答を求めることを諦めた。


「…と‥いうのは冗談だ。‥本音を言うと、今日を逃せば次はいつ君に会えるか分からないから、少し不安になった」
「……何それ」
「だから、今キスでもしておこうというんだ」
「意味分かんない」
「お互いを少しでも長く、鮮明に覚えておけるようにも」
「…別に思い出せなくていい‥」

甘い説得も空しく、あっさりと拒否の意を露にされる。
しかし、嫌だと言う彼の頬はほんのりと朱に染まったままで、ロイはそれにも苦笑した。
何て意地っ張りな子だろうと。

「相変わらずつれないことを言ってくれるじゃないか」
「大佐が恥ずかしいことばっか言ってるんだろ!」

いちいち次の言葉を用意してくるロイに腹が立ち、鬱陶しいといわんばかりの声色で怒鳴りつけた。
すると、こなれた手つきで顎をつかまれ、それまで逸らしがちになっていた視線を絡め取られた。
身動きの封じられた状態に不信感を覚え、エドワードは眉を顰めた。
それとは対照的に、ロイはただ目を細めて彼を見つめ、そして口を開く。

「顔が赤いな」
「はっ‥あ、赤くねえよ!」
「いや、真っ赤だ」

しっとりと言い、熱を持った頬を優しく撫でる。
それがくすぐったかったようで、エドワードの肩が軽く跳ねた。

「…止めろよ」
「‥と言うくせに、腕を解かれるのは嫌なんだろう?少しも素直になってないじゃないか」
「……キスとか‥そういうのは嫌だ‥」
「嫌?‥よく言う…ではさっきのは気まぐれか?」
「…俺もよく分かんないから‥その‥答えたくない」

おやおや。
これはどうしたものかと考えることすら楽しく感じ始めたロイだった。
しかし、意地の悪いのにも限度があるからな、と自粛することも自分の役割だとよく理解していた。
……だから。

「あっ」

ロイは、抱き締め合ったままを望んでいた小さな体を軽く引き剥がす。そして乱暴気味に突き放した。
不満気に頬を膨らませるエドワードをその場にポツンと残し、すぐ側のソファに、彼に背を向ける形で腰を下ろした。
突然のことで、行き場を無くした自身の体をどうすることも出来ず、ただ立ち尽くすだけのエドワードを更に追い詰めるかのように、
青い軍服を身に纏った大人はその表情を隠して。

「私は馬鹿じゃない。だから、今はこうすることにしよう」
「え?」
「いくら愛の平等を思っていても、やはり君は子供だからな。…そんな危なっかしい恋愛を、稚拙な我儘ばかりが目立つ相手としようとは思わ

ない」
「……なに?」
「あまりに素直じゃない相手を始終甘やかしてまで、危ない橋を渡るつもりは無いと言ってるんだよ。君はもう少し利口だと思っていた」
「何言ってんの‥大佐…」

思わぬ言葉が飛んできた。突然過ぎた。
百八十度、人が変わったような相手に、普段とは違う恐怖を感じた。

ロイの発言の真意はまだ不透明だが、それなりのショックはあった。
いままでの態度は、エドワードにとって我儘ではなかった。
素直になれと言われても、愛と名の付くものには些か疎い人間だったので、
そして相手が、平均より女性遍歴の豊富な大人なので、
どうしても恥じらいを捨てるなどという大胆な態度に出ることが出来なかった。
ただそれだけだ。他意はない。仕方のないことなのだ。

それなのに、この男は、そんな複雑な想いを認めようとしないらしい。
悲しいのか、悔しいのか、腹立たしいのか、もう判らなくなっていた。


「……大佐こそ、もうちょっと考えてくれる人だと思ってた」
「考えてるさ」
「…大佐が好きって言ったのに。‥何で俺がこんなこと言われなくちゃいけないんだよ…」
「君だって受け入れただろう」
「………俺の所為にするの?」
「否定はしない。だが怒っているわけじゃない。もちろん君との関係を切る気もない。だから、少しでも君から本音を聞きたいんだ」
「本音‥?」
「何がしたいのか、どうして欲しいのか、何が君の嫌悪になるのか…私をどう見ているのか…。
すべてぶちまけろとは言っていない。だが君は、打ち明けるべき最低限の感情さえはぐらかしているんだぞ。
これがどれほど私を不安にさせるか、分かっているのか‥鋼の」

エドワードは黙り込んだ。自分の中に閉じこもったと言ってもいい。
ロイという人間についてを、必死にまとめているようだった。同時に、自分の記憶するロイを組み立て直してもいた。
彼に問われた質問の答えを探すことの重要性を感じた為か、本音という言葉の意味が、彼の中で明確になった。
少し前の自分からは考えられない気持ちが、まず少年を支配した。嫌われたくないと思っていた。


「もう少しだけ、君には素直になってもらいたいと思うのは、罪じゃないだろう?」
「…………」
「感情をごまかす我儘より、むしろ自分を曝け出した後の我儘の方が、私は嬉しいんだがね」
「……だって」

――――じゃあ我儘を言うよ。あんたは大人でも、俺は‥まだ子供だから、素直に、なんて、とんでもない。


「都合のいいときにだけ子供に戻るのか。ははっ‥まぁね、私は構わないが」

エドワードの我儘は、苦し紛れの結果だと気付いていた。
ロイ自身も、そういう面で彼は器用ではないと知っていた。
だから彼に多くを望みはしないが、自分が教えてやれることなら理解させたいし、何か潜在するものがあるのなら、すべて引き出してやりたい


その為には、エドワードにもその気になってもらうしかないのだ。
この程度の努力は苦ではない。ロイのその想いは変わっていない。きっとこれからも変わることはない。


「さて。私の望みは聞いてもらえるのかな」

まだ背を向けたままの男が発した一言に、エドワードはひどく驚いた。
同時に、ひとつだけ質問が浮かんだので訊いてみる。

「……怒ってないのか?」
「何をだね」
「…俺が、その……素直じゃないこと…」
「まさか」
「じ、じゃあ‥こっち向けよ…。大佐の顔色が見えてないと、何か怖いだろ」
「怖い?不安の間違いじゃないのか」

もうとっくに聞き慣れた、ロイの笑いを含んだ声。
それが耳の奥で渦を巻くような感覚に襲われて、居心地が悪かった。

誰よりも負けず嫌いのエドワードが、どうしても勝てない相手。
その相手は当然ロイで、エドワードは今日も、彼に楽々と負かされた。
ロイには勝ち負けという意識はまったく無かったのだが、少なくとも少年の方は、そう区別を付けていたらしい。

その内に、悔しさが勝って、エドワードは憎まれ口を叩くことにした。
だが、多少の愛嬌でカバーすることは何とか覚えた。

「……やっぱ素直にはなってやらない!…でも、不満なら嫌ってほど言ってやるよ!」

瞬間、部屋中に響く、ロイの大きな笑い声。
エドワードは、自分は何か可笑しなことを言ってしまったか、と滑稽なほど慌てた。

「何で笑うんだ!」
「いや‥君らしいと思ってな。だが、まぁいいよ。受けて立とうじゃないか」
「……ま‥毎回同じようなこと言ってんじゃねぇよ…」
「君が毎回そんな反応と態度をとるだからだよ。可愛い可愛い」
「馬鹿野郎!!」

怒鳴りながらロイの座るソファへ足を進める。どかどか‥と、少々乱暴に。
声と言葉だけ聞くと、エドワードの反応が楽しいという様子なのだが、そんな彼の表情だけが見えていないのは、やはり嫌な気分だ。
ロイに言われた「不安」というのも、あながち否定は出来ない。
だから、ロイがどんな顔をして話しているのかを確かめてやろうと思ったのだ。

「‥何だね」

ちょうど向かい合わせになる位置まで来たとたん、
ロイはエドワードを見つめて言った。

その表情は、いつも通り。
余裕を纏って整った、意味ありげな笑みを湛えた大人の顔。
じっとエドワードを見つめて、視線を外そうとしない。そんな普段と変わらぬ彼。


「……なんか…」
「鋼の?」
「…何か悔しい…馬鹿大佐のバカ‥」
「だから何だ。人を馬鹿馬鹿と…いい加減、私だって傷付くぞ」
「…………」

散々に青ざめさせておいて、こんなに余裕を見せ付けてくる。
ロイはいつでもそうだった。いつでも大人で、エドワードの心は彼の゛大人゛に揺さぶられてきた。
要するに、ぴったり合う部分が無かった。
それなのに、ロイから与えられる様々な感情は、どれも恐ろしいほどにリアル。
しかし、それはロイにとっても同じこと。エドワードの行動や反応は、何もかもが新鮮であった。
他の子供なら持ち得ない何か…きっと弟のアルフォンスも持っているだろうが、エドワードの雰囲気は特に珍しい。
だが、そんなロイの考えはエドワードに知られることはなく、
むしろ戸惑いや怒りや不安や羞恥など、あまり良く感じられないものばかりを与えてしまっているようだ。
ロイは、そこに愛があると言うが、その領域に疎い少年にとっては性質の悪い意地悪くらいなものだった。


気が付けば、エドワードはまたロイの軍服の裾を掴んでいた。
掴む、というよりは、遠慮がちにつまむ感じ。
その行動に、ロイはやれやれ…と微笑むと、「今度は何がしたいんだね、鋼の」 と宥めるように低く囁いた。
すると、あからさまに目の前の少年の目が泳ぐ。
気まずそうにぱくぱくと言葉を探す口は、やがて適切な一言を探し当てた。



「……あ…もう少し一緒に居て‥」


とても小さな声だった。恥ずかしさやらで掠れかかっていたが、それでもちゃんとロイの耳には届いた。

素直にはなってやらない、不満なら嫌というほど言ってやる、などと悪態をついた彼だったが、
いざとなると、ロイの「素直になれ」という言葉が絶大な威力を発揮していた。
また天邪鬼になれば、今度こそロイは怒ってしまう…そう考えるとどうにも辛かったから。
だから正直に白状した。その代わり、エドワードは真っ赤になった顔を隠す為、深く深く俯いて顔を上げられなかった。
ロイも、その顔を上げさせることはしなかった。彼の表情がどうなっているのか、見るまでもないようだ。


「なかなか魅惑的だね、君からのお誘いは」

そう言うと、また静かに続ける。

「‥で?いつまで私の服を掴んでいる気だ?」
「ご、ごめん‥っわぁ!」

ぶつぶつと聞き取りにくい声量で謝り、パッと手を離す。
それを見計らったかのようだ。
ロイは素早くその手を掴み、一気に自分に引き寄せた。
つられてエドワードは体勢をガクリと崩し、ロイへと倒れ込む。

「何してんだっ!」
「何もせずに一緒に居るのでは、面白みがないだろう。おや、いつもの君に戻ったね」
「妙なことすんなよ!嫌だからな!」
「ただ同じ室内に居るだけなのか?」
「…いや、その…」

言葉に詰まる。

――――言えるか、「さっきみたいに抱き締めてくれ」なんて。
さっきは何故か言えてしまった。実際に行動にあらわすことも出来た。
だが冷静によく考えれば、そんなことを言ってしまえる自分になるのは嫌だ。何を言い出すか分からない自分になるのは恐い。
素直になれるのも、やっぱり境界がある。だから、これだけは絶対にもう言えない。
だって男に「抱き締めて」なんておかしかった。身内なら許されるだろうが大佐は父親じゃない。そんなのは変なんだ。俺も男だから。
それに、俺には、大人がするような事をしたいだなんて、そんな欲求はない。したくもない。しなくていい。知らなくていい。
俺はずっと健全な人間なんだ。アルと自分のことだけ考えてれば良いんだ。
ロイとの関係は所詮社交辞令。そうだ、機嫌取りのはずだ。大佐は俺の上司なんだ。大佐は俺を、もっと別の見方で見てるけど…。
でも、一緒に居て欲しいのも、抱き締めて欲しいのも本当。だからばつが悪い。どうかしてる。どうかしてる。どうしたらいい?
とにかくもう二度と言えない。何があっても。


口篭って返事をごまかしている間中、ずっとそんなことを考えていた。
だが、考えれば考えるほど、どうすればいいのかが分からなくなる。
どうもロイの不意打ちで落ち着きを失ったようだった。

「鋼の」
「…何がしたいって、意地悪だ、大佐は。何でそんなこと俺に訊くんだよ…もう俺分かんない…」

情けない自分の発言に、嫌気がさす。
その劣等感が、自然に顔を俯けさせる。これでは見た目、親か先生にでも叱られた子供だ。
沈黙が恥ずかしさを増す材料になる。
ロイが何か話せばいい。ロイが何かしてくれればいい。そうすれば、多分自分は助けられる。根拠はない。
もう縋る思いだ。エドワードは小さく「大佐」と呟いた。それが限界だった。

すると、背中にスッと腕が回り、赤子をあやすようにポンポンと軽く叩かれた。

「………」
「仕方のない子だな、君は。‥とにかく少し落ち着くといい」
「…落ち着けるか‥こんなんで…」
「その発言は色々な解釈ができるね。…あぁ、今はこういう事は言わない方がいいかな」
「最低…」
「それはないだろう。もう少し言葉遣いに注意してくれたまえよ‥」

言いながら、ロイは既に気が付いていた。
エドワードの望みが何なのか、そして、それを言うことに戸惑っているのだと。
分かった上で、しかしそれについては触れず、こうしてしばらく抱き締めておいてやろうと思っていた。
今も特に拒否の意を露にしない辺り、この判断は見当違いではないようだ。
驚くほど大人しい。


「…大佐」
「ん?」
「大佐は、こうしてたいの?」
「……そうだよ。嫌かね?」
「…べ、別に…」
「なら構わないだろう」
「………」


ふと、ロイは思った。
父親は幼い頃に家を出て、母親も他界。
その母を蘇らせようと人体練成を行ったが失敗。
自分は手足を、もはやたった一人の家族となった弟は体ごとを失った。
当然だが重過ぎる罪と罰を背負い、それでも更なる禁忌を求めて旅を続けてきたのだ。
弟は、魂はあるが体温のない、冷たい鎧の体。
エドワードは、体を取り戻す願いと同時に、誰かのぬくもりをも求めていたのだろうか。
そうしてやっと出会ったぬくもりの提供者が、たまたま自分だったのではないか。
だがエドワードも自分も男だ。故に、ひどく戸惑っているのではないだろうか…と。

思ったけれど、今は訊かないし、言わないことにした。
訊けば尚更エドワードを困らせることになる。
安心させようと言葉を発しても、今の彼は不安定。混乱するに決まっている。
今も、ロイの欲で抱き締めているのだと、ロイのせいにしておけば、
エドワードの心から罪悪感が消え、多少は楽になるはずだ。
歪んでいるな…と感じるが、だからといって腕の中に収まっている少年を諦める気にはなれない。
その感情から既に歪んでいるのかも知れないが、もうどうしようもない。


「…君のそれは、今は社交辞令でいい」
「大佐?」
「等価交換ということにしようか。君は私の機嫌を取って、私は対価として‥何か情報でも回してやろう。どうかね?」
「……いいのかよ。大佐はそんな気じゃないんだろ‥?」
「しばらくは、きっとこの方が楽だよ‥君にとっては。…君がこんな小細工は必要ないと言うのなら別だが」
「…じゃあそれでいい。俺も情報もらえて得するし…」

エドワードが了解した刹那、ロイの抱き締める力が強くなった気がした。
気のせいか、と思い直した時、胸の奥がムカムカする気もした。
でも、ロイも言った。きっとこれで良い。
ロイは間違いなく愛という一文字を抱えてエドワードを見ている。エドワード自身もそれは知っている。
だが、そのロイが自分の為に距離を置く形を取ろうと提案してきたのだから、何も迷う必要はない。
何度もそう思い込ませて、エドワードは目を閉じた。
ロイの温かさがはっきりと伝わる。自分以外の人の体温。それが何とも心地良かった。



それから少年がアルフォンスの元へ帰るまで、ロイは何度もエドワードを呼んだ。
あくまでも 「鋼の」 という呼び方で。
エドワードも、つられて 「何、大佐」 と返事をし続けた。

等価交換と名の付いた関係が始まったというのに、
帰りにロイが差し出した資料の束を、エドワードは 「今日はいらない」 と断った。
それは、抱き締めてもらうのは自分の望みであったからで。
もちろん、それはロイに告げられることはなかった。


そして、また司令部に立ち寄るチャンスを待っていることなども、エドワードには言えるはずがなかった。
彼の想いを知ってか知らずか、ドアが閉まる直前に、

「今度こそ、君にまともな任務を与えるから、来週辺りにまた来なさい」

とロイの声がしたので、エドワードは黙ってただ頷いた。





―――END―――









「等価交換ねvv」と言ってキリカリス嬢に無理矢理(?)収めさせた年貢…(笑
ホント「今更恥ずかしいわ!」と言われんばかりの時期に載せてやりました。

た だ ひ た す ら 平 謝 り で す … !!(滝汗;;;

めちゃくちゃ遅いってもんじゃないよね。去年収めてもらったんだもん。
てゆうかその前のとか一旦消しちゃってゴメンね…;;
でも復活したから!!
恥ずかしいから消せとか言わないでねー(笑

かなりの力作、有難うございました…!!


2005/2/3